-File No.002 : 大黒亜莉沙-


 雑踏の中、真白は歩いていた。
 人混みは苦手だ、と真白は思っていた。そもそも、人と触れ合うこと自体、得意な方ではなかったのだ。
 だが、それはあくまで過去形の話に過ぎない。有菜に犯され、産卵され、そして今のご主人様・・・・をそのはらに宿してからというもの、価値観が大きく変わったという自覚がある。
 何よりも変化したのは性欲と貞操観念だ。三大欲求の内、食欲や睡眠欲といったものが極端に薄れ、その代わりと言わんばかりに性欲ばかりが溢れる。どれだけオナニーをしたところで満たされることはなく、結局のところ、適当に男漁りをしなくてはならなくなった。
 それ自体は煩わしいと思う一方で、その結果得ることのできる至上の快楽を考えれば、その程度の些事は気にならなくなるのもまた事実だった。
 こうして今、こうも人の多い場所へと出てきているのも手頃な相手を見繕うためだ。
「あら?」
 聞き覚えのある声に真白が振り返ると、
「アンタ、櫛本?」
 どこか高圧的な印象を与える口調の主は、見間違えるはずもない容姿の美少女だった。その周囲には、取り巻きと思しき男たちが四人。その誰もがモデルもかくやといったほどの美男揃いだ。
「あ、えっと……大黒だいこく、さん?」
 大黒亜莉沙ありさ
 日本人離れしたエキゾチックな美貌に宝石を思わせる碧眼、腰上まで伸びる滑らかな金髪は、彼女が独逸系のクォーターであることを示している。身長も同年代の女子と比べると、頭一つとは言わないものの、明らかに高い。F、いや、Gほどもあるだろうか、豊満な胸の膨らみは、それだけでも充分に色香を漂わせている。真白も大きな方ではあると自負しているが、彼女のそれは更に上だ。
 中学時代でも歳不相応な容貌だったが、時を経て、その色香は同姓である真白にさえ興奮を与えるものとなっていた。あるいは、単純に真白に憑いたモノ・・・・・のせいなのかもしれないが。
 彼女、大黒亜莉沙の美貌は学内ではもちろんのこと、彼女見たさに他の学校から訪ねてくる猛者すらも稀ではあったもののいたくらいだ。そんなことはフィクションの中だけのことだと思っていた真白は、それを聞いた時には大層驚いたものだった。とはいえ、そんな驚きすらも彼女を実際に見れば納得できてしまうものだったのだが。
「久しぶりじゃない。元気してたぁ?」
 言葉とは裏腹に、亜莉沙の瞳に浮かぶのは親愛の情ではなく、敵意。捕食者が獲物を見つけたようにも感じられるような、加虐の感情。
 真白は彼女の、亜莉沙の秘密を知っている。
 知りたくて知ったわけではない。偶然、事故として知ってしまっただけだった。
 当時、クラスの端で縮こまっていたような真白に対して、クラスの中心にいた亜莉沙は干渉してくることなど一切なかった。真白にしても、交友関係の広い亜里抄に対して羨望を抱くことはあれど、妬む気持ちもなかった。
 だが、自分の秘密を真白に知られたと知った亜里抄は、途端に真白への攻撃をはじめた。真白はそれを笑ったわけでも、誰かに教えようとしたわけでもないのに、だ。
 つまりは、虐めである。
 小学校の頃にも、真白は軽い虐めを受けていたことはあった。だが、それは今考えればあくまで悪ふざけの域を超えるようなものではなかった。
 彼女を中心とした虐めは、常軌を逸していたと言っても過言ではないだろう。
 特に、体育をはじめとする教室移動の授業は真白にとって最も気の重くなる授業だった。着替えようと思うと、体操着に『淫乱ビッチ』など口に出すだけで公序良俗に反するような単語が落書きされていたり、場所によっては切り開かれていたり。授業を終えて教室に戻ると、水泳のときは当然のように下着はなくなっているし、それが何度か続いたかと思えば、机の中に咳き込むほどの臭いを放つ体液漬けの下着が、俗に言う『大人のおもちゃ』と一緒に詰められていたこともあった。
 それらを扇動したのはあくまで亜莉沙ではなく、その取り巻きたちだった。真白の目から見ればその発端となっているのが亜莉沙であるということは明白だった。しかし、彼女はその狡猾さをもって、決して自分の手を汚すようなことはなかった。
 あるいは、否、まず間違いなく、教師たちも亜里抄がその中心にいること自体はわかっていたはずだ。だがそれでも、注意をすることができなかったのは彼女が大企業の社長令嬢であるという理由からだろう。学校の教員に影響を与えるほどの権力を持った大企業の令嬢が実在することや、更にはそんな人物が自分のような庶民と同じ学校に通うことがあるなどとは思っていなかったが、現実は現実だった。
 それでも、もし亜里抄が直接手を下すことがあれば何らかの対応もできたのだろうが、証拠もなく叱ることもできなかったのだろう。
 助けを求めれば、助けてくれた教師もいただろうが、真白はそうしなかった。もしそうした場合、その後にどんな報復があるかわかったものではなかったし、卒業さえしてしまえば、取り巻きたちは別として、亜莉沙自身はどこかのお嬢様学校に行くことがわかっていたし、もし取り巻きたちと一緒の高校になったとしても、亜莉沙という巨大なバックボーンがなくなってしまえば、虐めをすることもなくなるだろうと思っていたからだ。
 それでも、真白が彼女の秘密を知ってから中学を卒業するまで、二年半に及ぶ陰湿な虐めを受け続けて尚、よくもまぁ不登校にならなかったものだと真白は自分で自分に呆れを覚える。
 とはいえその結果、二年半の間、取り巻きたちは何度も教師たちの注意を受けていたものの、亜莉沙本人にそれが及ぶことは一度としてなかった。
 実のところ、亜莉沙のことを恨んでいるか、憎んでいるかといわれると、そういうわけではない。面倒な相手だと思ってはいたし、虐めを肯定的に見るつもりもなかったが、かといって能動的な怒りを持つまでも至ってはいなかった。それが何故なのかと言われれば、真白自身にもわからない。
「ってかさぁ、この女、なんかエロくね?」
「あ、それ俺も思った。なんつうかイヤらしいっつうか、ねっとりする視線っつうか?」
「ふぅん。言われてみれば確かにそんな感じするわね」
 男たちの言葉に、亜莉沙はしばし、悩んだような様子を見せると、かつて真白を虐めていた時のような、攻撃的な笑みを浮かべ、告げる。
「そんなにエロいことがお望みならいいわよ。そのお望み、叶えてあげる。アンタたち、コイツをぐちゃぐちゃになるまで犯しちゃいなさい」
「でもよぉ亜莉沙ぁ、さすがにマズくね?」
「ガッコのイジメと強姦じゃあ違うしなぁ」
 流石の取り巻きたちも強姦を勧められてはすぐに頷くこともできないのだろう。とはいえ、真白からしてみれば迷っている時点で相当に頭が弱いように思えるのだが。
「大丈夫よ。だってそいつ、水泳の授業のときにショーツ盗んでおいて、男子たちにザーメン漬けにさせてから机の中にバイブと一緒に入れておいてもなーんにも言わなかったのよ? 教師にも何も言えないような意気地なしが、警察になんていけるはずないじゃない。あっ、もしかして嬉しかったのかもね。あは」
「うっへぇ、エロいっつうかヘンタイじゃねぇか」
「マゾすぎんだろおいおい」
「仕方がないなぁ、おじさんたちがエッチな君にオシオキしてあげようかぁ」
「お前それキモすぎんだけど」
「こないだ読んだエロマンガに載ってたんだよ」
「うぇぇ、エロマンガとかキモッ、オタク臭ぇ」
 男たちは口々に、卑猥な言葉で真白を罵る。しかし、今の真白にとって、それらの言葉は快楽を得るための一種のスパイスに過ぎなかった。
 もうすぐ来たる自分への容赦のない凌辱に対し、期待に胸を高鳴らせる。これから起こる未来を想像するだけでも絶頂感が全身を駆け抜ける。
 だが、それを気付かれてはいけない。あくまで自分は被害者なのだ。不意の出会いに、強姦を受けるいたいけな少女。そして少女は凌辱の中で、快楽に目覚めていく。そんなシナリオを思い描き、再び絶頂。だらしなく崩れそうになる表情を、なんとか取り繕い、恐怖を表現する。
 亜莉沙や男が愚鈍なだけなのか、それとも自分の演技が上々なのか、気付かれる様子はない。もし後者であるならば、今度改めて演劇部にでも入部してみるのも悪くはないかもしれない、と真白は思う。演劇部の部員たちもともだち・・・・にして、淫らな劇を演じる。絶対に公演許可の出ないような破廉恥な衣装で、口にするのも憚られるような淫らな演目を、拒否する教員や教育委員会を部員たちの身体でたらしこみ、ともだち・・・・にする。
 嗚呼、なんて素晴らしいのだろうか。自身の妄想に真白は三度の絶頂を迎え、凌辱を心待ちにする。
「……もうなんでもいいから、さっさと犯しちゃって。そうね、そこの公衆トイレがいいんじゃない? そんなイヤらしいマゾ女には公衆便所がお似合いよ。私は美容院行ってくるから。二時間くらいしたら戻ってくるわ。それまで好きなだけ楽しみなさい」
 言って、亜莉沙は真白と出会ったことや、強姦の命令をくだしたことなど何事もなかったことかのようにその場から去っていく。その様子を見て、そういったことをするのがはじめてはないのだろうと真白は直感する。
 男たちに手を引かれるままに、真白は公衆便所の中へと入る。公園の公衆トイレとしては清潔な方ではあるものの、決して褒められるほどに綺麗とはいえない。だが、今の真白にとってそんなことは些事に過ぎなかった。早く犯してほしい。早く精液を注ぎ込んでほしい。そんな、牝の、奴隷の本能だけが思考を埋め尽くしていた。
「うーっす。んじゃはじめますかぁ」
 ついにはじまる。
「うわ、この女、パンツびっしょびしょだぜ。マジで超エロいんですけど」
「これ全部愛液? うっそ。ありえねぇぇぇ」
 真白は男たちに無理矢理に服を剥がれ、抵抗するフリをしながら、また絶頂を迎えていた。





「つかまえて」
 美容室で用事を済ませ、公園の公衆便所へと戻ってきた亜莉沙を迎えたのは牡の精臭と真白の不意の言葉だった。
 真白が何を言ったのかわからずに、聞き返そうとしたそのときには、亜莉沙は両腕をもって抱え上げられていた。いくら亜莉沙が同年代の同姓と比べて高い身長だとは言っても、あくまで女性だ。ガタイの良い男子には簡単に持ち上げられてしまう。
「ちょっと、アンタたち! 何のつもりよ?」
「つかまえて、っていったの。だからつかまえてくれたの」
「はぁ? そんな奴の言うこと聞く意味がわかんない! 私の言うこと聞きなさいよ! ちょっと! どうなるかわかってるの?」
「わかってるぜ? 俺たちはお前を調教する。お前はチンポが大好きな牝になる。単純だろ?」
 それまで、無言を貫いていた男のうち、一人が下卑た笑みを浮かべて答えを返す。つい一時間ほど前まで、自分の忠実な手駒だと思っていた男に拘束され、レイプ予告をされるなどとは夢にさえ思わなかった。冷静な思考など消え去り、ただこの状況からどうにかして脱しようという一つの考えのみが残る。
「そいつに何を吹きこまれたか知らないけど、フザけるのもたいがいにしなさいよ! 今ならまだ許して……」
 亜莉沙の声は、強制的に止められた。男たちの膂力をもって、床に打ちつけられたのだ。
「っ……!」
 公衆便所の床に倒されるなどというあまりの暴挙に、亜莉沙は怒りの声をあげようとしたが、
「うるさいよ」
 真白の声は、決して大きかったわけではない。小さく、平坦な声だったが、底知れぬものを感じさせる何かがあった。
 蛇に睨まれた蛙のように、亜里抄は本能的に、吐き出しかけていた罵声を引っ込める。
「……もういいから、おかしちゃっていいよ。いちじかんくらいしたらもどってくるから、それまでにだいこくさんをおチンポなしじゃいられないヘンタイさんにしちゃっておいて」
 最早興味も尽きたと言わんばかりに吐き捨てると、真白は男たちを品定めするように睥睨する。男たちはおろか、亜里抄よりも明らかに小さいというのに、その存在感、威圧感はその場にいる誰よりも大きく、また禍々しい。
「えっとね。きみと、きみはー、わたしときてぇ」
 あは、と、真白が淫らな笑みを零すと、間近にいる亜莉沙の鼻孔に精臭を帯びた吐息が入ってくる。濃縮された牡臭に、亜莉沙は思わず顔をしかめる。
「ふたりのほうがおちんちんがおおきかったからねー」
 舌っ足らずな様子で男たちに指示を終えると、真白は服装をある程度整えてトイレから外へと歩き出した。衣服や髪の毛などには精液がついたままだが、気にするまでもないと言わんばかりだ。
「アンタ……頭おかしいんじゃないの?」
 亜莉沙の言葉に真白は足を止めると、何を言っているのか理解できないとでも言いたそうに首をかしげる。
「きもちいいことがしたい。なにもへんなことじゃないよ? このこたちは、ごしゅじんさまたちはわたしたちがきもちよくなるのをてつだってくれるんだもん」
 冗談を言っているわけでも、見下しているわけでもない。真白はただ純粋に、本心からそう思っているのだということが、亜莉沙にはわかった。わかってしまった。あまりにも異質な、相容れることのない狂気。金も威光、も権威すらも通用しない欲望の怪物を前に、亜莉沙は紛れもない恐怖を感じていた。
「あ、アンタなんかと私を一緒にしないでよ!」
「いっしょだよ? だいこくさんも、わたしと、いっしょになるの。いやらしくて、おチンチンのことしかかんがえられない、どうしようもないメスになるの。だから、いっしょ」
 この上なく嬉しそうに言い終えると、真白は止めていた足を再び進め始める。
「ちょ、アンタ……櫛本! やめさせなさいよ! フザけんじゃないわよ!」
「うるさい、っていったよ?」
 真白は再び威圧感ある口調で告げると、何を思ったか拘束された亜莉沙へと肉薄し、突然その唇を奪った。あまりに唐突な動きに亜莉沙は反応できず、流し込まれた牡汁混じりの唾液を嚥下してしまう。
 熱。
 まるで燃えるような熱が、身体の内側から生じる。その熱がなんなのか、一瞬遅れて亜莉沙は気付く。それは疼き・・だ。絶頂の寸前のもどかしさをひたすらに引き延ばしたような、牝の疼き。
 声をあげようとして、それができないことに気付く。無声となったわけではない。叫んだつもりだというのに、小さなか細い声が漏れ出しただけだったのだ。
 媚薬? 痺れ薬? 否、どちらも違う。興奮薬や精力剤と呼ばれるようなものは実在するが、それらはあくまで気持ちを後押しする程度のものであって、AVやポルノ小説のように劇的な効果を発揮するものではない。まして、薬のたぐいは飲んですぐに効き始めるようなものではない。
 だからこれは、そんな生易しいものではない。もっとずっと、恐ろしいモノだ。
「わたしがかえってくるまでに、いっしょ・・・・になっててくれるとうれしいな」
「ぅ、ぁ、あ……ァ、ァァ……」
 不意に、亜莉沙の連れていた男たち四人のうち、二人が苦悶の声をあげて呻き出した。
「あ、はじまったみたいだね。だいじょうぶ、あんしんして。しんじゃうわけじゃないから」
 ホラー映画のワンシーンを思わせる光景に、そして、それを見ても動じることのない真白に対して、亜莉沙はただひたすらに恐ろしさを覚える。
「かえったんだよ。あれだけえっちしてれば、すぐにかえりもするよね。それにしてもはやいけど」
 かえった。その単語が何を意味するのか、亜莉沙はしばし理解できなかった。しかし、それが『孵った』というものであると理解する。
 二ミリ内外という微小な雄性卵は体液に混じり、口から体内を通って僅か五分ほどで睾丸へと到達、そこを中心として身体全体へと支配の根を広げていく。十分もする頃には全身がほぼ完全にその支配下へと置かれる。完全に宿主を支配した寄生体は生命エネルギーを昂ぶらせ、即ち性的興奮へと追いやることで孵化する。それによって精神面ではなく、肉体面における変質が発生する。
 寄生生物に寄生された男たちは、今や真白の奴隷、あるいは操り人形である。たとえば自分で息を止めて窒息死しろ、と命令された場合、たとえ本人がそれを遵守しようとしたところで気を失い、本能的に呼吸を再開してしまう。だが、睾丸内の寄生生物から発せられる別の命令系が脳から送られる本来の命令系を上回る優先度で介入し、そういった本来不可能な命令ですらも、拒否することなく実行を可能とする。
 精神を掌握された男たちは、肉体までもその姿を本来あるべきヒトのカタチから乖離させていく。
 無言のままにただ響くゴキリ、ゴキリ、という関節のズレる音がひどく不気味に聞こえる。
「え……うそ、でしょ? 何よ、それ……冗談、よね? ちょっと……」
 ヒトが、ヒトではないナニカへと変わっていく。
 骨格自体が変形し、頭一つ分も身長が伸びる。全身の筋肉が隆起することで、まるで倍以上も大きくなったかのように見える。
 昆虫や、甲殻類といったある種の節足動物を思わせる硬質な甲殻が皮膚に代わってその身体を覆い、変身・・が終わった。
 その異様さは、現実離れをしているどころか、リアリティの欠片もない。B級映画でも見ているような錯覚を与える。
 だが、そこに驚きを覚えているのは亜莉沙だけだ。変貌を遂げた男たち自身も、そうでない二人や真白も、それがあたかも当然のことかのように平然とその変化を見届けている。
「あぁ、そうだ」
 何かを思い出したかのように、化物たちに耳打ちすると「じゃあ、よろしくね」と言って真白は歩き出す。そのまま扉が閉じられ、あとに残ったのはヒトではなくなった化物が二匹と、ヒトをやめさせられることを運命づけられた牝が一匹。
 小さな抵抗の叫びが、次第に快楽を求める喘ぎへと変化していくのには、それほど長い時間は必要ではなかった。





「どーう?」
 男二人と共に戻ってきた真白は、相も変わらず舌っ足らずな様子で問いかける。
 それが調教役だった男たちに向けられたものだったのか、それとも調教を受けた自分に向けられたものだったのか、それを判断することさえも今の亜莉沙にはできなくなっていた。
 そもそも、調教という言葉はいまひとつ正しくはない。行われていたのは凌辱、あるいは単純に、性交。
 最初の五分、十分ほどは抵抗の意思を残していた亜莉沙だったが、そのあとは完全に体の内外から溢れる快感に流されるようにして舌を絡め、胸で扱き、我武者羅に腰を振る淫らな牝に成り下がっていた。美しい金髪も白濁に汚れ、肉便器という言葉の似合う風貌となっていた。
「きれいだよ。とーってもきれい」
「綺、麗?」
「そう。いつものきれいなきんぱつもきれいだけど、ザーメンまみれのだいこくさんも、とってもきれい」
 真白が去って行く前に男たちに告げたのは、彼女の美しい金髪を白く染めてくれ、ということだった。
 亜莉沙は、自分が独逸系クォーターであることに強いプライドを持っていた。そのため、彼女は自分の日本人離れした容姿を好んでいたが、彼女には他人に知られるわけにはいかない秘密を持つことになった。
 彼女の髪は黒く、その瞳は茶だったのだ。
 金髪碧眼という大黒亜莉沙の持つ二大外国人的要素は、どちらも染髪とコンタクトレンズという偽装によって成り立っていたものだった。
 それは彼女にとって、決して知られてはいけない事実であり、それゆえに、不意な事故から知ってしまった真白は彼女から陰湿な虐めを受ける羽目になった。
 だからこそ、真白はそれを穢させたのだ。彼女のプライドをへし折り、淫液に染め上げることで淫らな肉人形へと貶めるために。
「だいこくさん」
 呼びかけた真白はスカートをたくしあげると、その下には何も履いておらず淫蜜が乾ききっていない秘部が露わになる。
 何をしようとしているのか、と思い至るよりも早く、変化は起こった。
 真白の秘裂が、内側から力を加えられたかのように蠢く。否、実際に力を加えられているのだ。ヴァギナの壁を押しのけて、その内側から現れたのは男根によく似た何かだった。ヒル蛞蝓ナメクジのような軟体動物にも見えるし、かと思えば場所によってはサソリカニを思わせる、キチン質じみた甲殻を纏っている部位もある。
「なに、それ……」
 本来ならば、亜莉沙は恐怖に絶叫していたことだろう。
 だが、快楽に蕩けた今の亜莉沙は、それを恐怖の対象として、ではなく、自分に更なる快楽を与えてくれる存在として認識していた。
 それゆえに亜莉沙は、
「き、て」
 その禍々しき存在を、自ら受け入れる。
 充分の域を超えて、壊れる寸前、もしくはそれ以上の凌辱を受けた亜莉沙には、最早前戯などというものは不要だった。
 キャパシティを超えた巨大な異形の挿入に、しかし亜莉沙は声にもならない歓喜の咆哮をあげる。
 腰を振る真白の動きに合わせて、淫らな腰つきでそれに応える。打擲と水音、そして歌声。淫らな三重奏が公衆便所をある種の異界へと変えていた。
「でるっ」
 宣言とほぼ前後することなく、真白の疑似男根から体液が噴出する。牡の射精によく似たそれは、しかしそんなもの・・・・・は比べ物にならないほどの圧倒的な快楽を亜莉沙に与える。
 亜莉沙自身が当初看過した通り、それ・・は、単純な媚薬ではない。
 肉体を淫らに作り替える媚薬としての効果ももちろん存在する。だが、これにはそれ以上に恐ろしい効力が働いている。
 即ち、物理的ではない、霊的な精神への干渉。薬剤によって被暗示効果を高められ、絶頂によって精神の防壁は脆くなる。そこに強い干渉が加えられ、精神、あるいは魂と呼ばれる生物の最大最後の尊厳が蹂躙されていく。
 それまではただ快楽に流されていただけだった亜莉沙が、自ら快楽に向かって動き出す。腰を猿のように振り、もっと、もっと欲しいと淫らに踊る。
 亜莉沙の求めに、真白も応じる。肉と肉のぶつかりあう打擲音が響く。二度目、三度目と繰り返される吐精と、その数倍もの回数の絶頂。
「ん、っ、たまご、うむよ? いいよね? きもち、いぃよ!」
「え? なに? それ、うん、ほしい! ちょうだいっ!」
 快諾を得、真白は更に腰の打擲を早める。
「んっ……」
 四度目の吐精。それまでの全ての快感を足して尚、まだ足りないほどの絶対的な快感。全ての快楽神経が悲鳴を上げるほどの超快感と共に、亜莉沙は自分の中に、何か異物が入り込んだことを自覚した。それが自分を更なる快楽の高みへと連れて行ってくれる存在であると、そして、自分たちのであり、またご主人様でもあることを、本能的に理解する。
「これで、わたしも、だいこくさん……うぅん、ありさちゃんも、いっしょ。おともだちだね」
「とも、だち……?」
「そう。ともだち。わたしがうえでも、ありさちゃんがうえでもないの。どっちもおんなじ、ごしゅじんさまのどれいで、めす。いっしょで、だからともだち。ね?」
「そう、ね。うん、わたしも、あなたとおんなじ、めす」
 いつの間にか、亜莉沙の言葉もまた、どこか舌っ足らずなものとなっていた。胎内に定着した寄生体が、その精神の情報処理能力を間借りすることによって発生する思考速度の低下なのだが、彼女たちはそんなことは知らないし、知ることの必要性を感じてもいない。
「ふふっ、ありさちゃん。わたしのおねがい、きいてもらえるかな?」
 もし、二時間前であれば鼻で笑い捨てたことだろう。あるいは、怒りのままに拒絶したことだろう。
 だが、今の亜莉沙にそれを拒絶することはできなかった。彼女が、自分を、この上ない快楽へと導いてくれる存在であると知ってしまったから。それまでに知らなかったほどの快感を知ってしまったから。
 だからこれは、問い掛けではなく、ただの確認に過ぎない。
「きいてくれたら、とっても、とっても、しんじゃうくらいにきもちいいこと、おしえてあげる」
 真白の言葉に、亜莉沙は想像するだけでも淫らな思考が神経系を刺激し、軽い絶頂へと押し上げられる。潤、と牝蜜がたらふく注ぎ込まれた精液と共に溢れ出し、既に体液に濡れていない部分など残っていない太股を伝って床へと至る。
 亜莉沙の絶頂の余韻もひかないままに、真白は歩き出す。亜莉沙も置いて行かれぬようにと、弛緩した身体に鞭打って立ち上がる。
「いこっ」
 無邪気で、それでいて淫らな色香を纏った真白の声に、亜莉沙は頷く。
 決して、彼女に命令されたから、ではない。彼女も自分も、同じカーストの宿主でしかないのだから。亜莉沙にとって、真白は主人ではない。ただのともだち・・・・であり、同じ牝奴隷。
 亜莉沙が真白の言葉に従う理由はただ一つ。その方が、より快楽を得ることができるから。そのただ一点。
 足もともおぼつかず、どこか呆けた様子で、二匹の牝は夜の街へと消えていった。

寄生生物テルミサリス
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